過食嘔吐で歯が溶ける?
嘔吐をしたときの胃酸(胃液内の強力な酸)が歯を溶かしてしまいます。
過剰に食べ物を口にした後に、意図的に吐いてしまう行為である「過食嘔吐」。嘔吐をすると食べ物と一緒に胃液も混ざって出てきます。このときの胃酸が、歯を溶かす原因になっているのです。ここでは、過食嘔吐によって歯に表れる症状やダメージについてご紹介。さらに、普段できる歯を守る方法についてもまとめました。
過食嘔吐により歯に現れる症状
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歯が黄ばむ
過食嘔吐を繰り返すと胃酸によって歯のエナメル質が溶かされ、象牙質が表面に浮き出てきます。象牙質は歯が衝撃を受けた時のクッションのような役割があり、エナメル質の内側にある部分。
象牙質の色は黄色なので、外側の白い部分であるエナメル質が溶けて薄くなると、歯が黄ばんで見えるのです。 -
虫歯になる
過食嘔吐は虫歯になりやすくします。嘔吐した時の胃酸がエナメル質を削ってしまい、そこに虫歯菌が入り込みやすくなるからです。胃酸は、歯周病や歯肉炎の原因になることもあります。
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歯が溶けてなくなる
歯が黄ばんだり虫歯になったりしても嘔吐を続けていると、歯がボロボロになってしまい、最終的に溶けてなくなってしまいます。中には20代の内に歯が全部なくなる人や入れ歯になってしまう人もいるそうです。
歯に与えるダメージの原因は?
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歯がボロボロになるのは胃酸が主な原因
歯にダメージを与える原因は胃酸です。胃酸は非常に強力な酸で、繰り返して嘔吐をしていると、歯の表面を守っているエナメル質が溶かされてしまいます。酸によって歯を溶かされた状態は酸蝕症(さんしょくしょう)といい、過食症の人に多く見られる症状です。
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通常の食事にも酸が含まれる
歯を溶かす酸を含むのは胃酸だけではありません。普段私たちが摂る食べ物や飲み物にも酸は含まれているのです。酸の強弱は「pH(ペーハー)」という値で表されます。健康な人の口内は中性か弱アルカリ性で保たれており、酸は6pH~7pHだそうです。pHの値は低いほど酸性が強くなり、5.5を下回ると歯のエナメル質が溶け始めます。例を挙げると、飲み物ではコーラ2.8pH、ワイン3.4pH、梅酒2.8pHほど。食べ物だと、梅干し2pH、リンゴ3pH、バナナ5pHとなります。基本的に炭酸飲料・お酒・糖質が多い食品は酸性が強めです。
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嘔吐をしなくても過食だけで歯は溶けやすくなる
過食症の場合、普通の人よりも食べる量や回数が多いため、食べる時間が長くなります。食べ物に含まれる酸が歯に長時間付いたままだと、歯のエナメル質を溶かしてしまい、酸蝕症になる可能性が。嘔吐をしなくても、歯が溶けることは十分に起こり得ます。
過食嘔吐後の歯のケアはどうしたらいい?
過食嘔吐により強い酸性の胃液が歯に触れる頻度が多くなればなるほど、嘔吐に起因して歯のエナメル質が酸蝕し、虫歯や酸蝕症、治療した歯の修復物の脱落などいろいろな問題が生じます。こうした状態を予防するためには、酸性に傾いた口腔内のpHを正常に戻すことが大切です。
一番の治療は、嘔吐をなくすことですが、すぐになくすことはなかなか難しいもの。今日からできる、歯を守るためにできる過食嘔吐後の歯のケアには次のようなものがあります。
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口をすすぐ
過食嘔吐後には、口の中のpHが嘔吐食後に下がって酸性に傾きます。そのため、まずは嘔吐後には口の中をすすいでpHを高い状態に戻すことが大切です。
ただし、過食嘔吐後に口をすすいだだけでは過食や歯に付着した嘔吐物が口の中でプラークや汚れとして付着して、口の中の衛生状態を悪くしてしまう可能性があります[1]。できれば嘔吐後もブラッシングではについた汚れを落とすようにしましょう。
また、虫歯予防であればフッ化物洗口剤でお口の中をブクブクと1分間ほど洗浄するのもオススメです。フッ化物は歯のエナメル質に取り込まれ、強い歯を作るのをサポートしてくれます。虫歯予防に用いられているものですから、嘔吐後に口をゆすいで極端な酸性に傾くのを防いだ後は、フッ化物洗口剤でブクブクうがいをして虫歯予防に努めてみてはいかがでしょうか?
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ガムを噛む
また、酸性に傾いてしまった口の中を中和させるためには唾液も大切な役割を果たしています。口の中の自浄作用を高めて、酸蝕と最近の増加を防ぐためにも唾液を分泌させるためにキシリトールガムを噛むなどして唾液分泌のためのエクササイズをするのがオススメです。[1]
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冷水痛があるならマウスガードも有効
歯の酸蝕を防ぐための方法として、もう一つ挙げられるのが嘔吐時に胃酸が歯につかないように守る方法です。マウスガードを使って歯の表面を保護すれば、胃酸による歯の酸蝕が予防され、既に酸蝕で歯がしみるなどの症状がある場合でも悪化を食い止めることができます。[3]
歯医者さんでは他にも、通院でフッ素化合物を歯に塗布して脂質を強化したり、お口の中を衛生に保つためのサポートをしたりしてもらえます。歯を守るためにも、過食嘔吐のある方は一度歯医者さんに相談してみてもいいかもしれません。
歯を守るためにやっておきたい習慣
ここでは、胃酸や食べ物の酸から歯を守るための方法を紹介します。
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長時間の過食を減らす
糖質を多く含む食べ物は、酸が強力でpHが低いのが特徴。しかし糖質のpHが下がるのは、食後20~30分と言われています。その間に食事を済ませてうがいをすれば、歯が「再石灰化」をして口内の酸を抑えるのです。再石灰化とは、エナメル質を修復して健康な歯を取り戻す働きのこと。
逆に30分以上食べ続けると、歯は再石灰化されず歯が酸にさらされ続けてしまいます。歯を守るためにも長時間の過食をしないように、20分から30分以内の食事を心がけましょう。 -
唾液を増やす
歯のエナメル質を修復する再石灰化は、唾液によって促進されます。摂食障害になると、ストレスや食生活の偏りが影響して唾液の分泌が少なくなりがちに。唾液の分泌が増えれば、虫歯や酸蝕症のリスクを抑えられます。唾液の分泌を増やすためにおすすめなのは「昆布を食べること」。昆布には口内をアルカリ性にする成分・ミネラルが多く含まれています。また、うまみ成分・グルタミン酸が唾液の分泌を促進。食べる時はよく噛んで、唾液を分泌させることを意識しましょう。
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ストローを使う
ジュースやお酒などを飲む場合は、グラスに口をつけて飲むのではなく、ストローを使うようにしましょう。口をつけてそのまま飲んでしまうと、口の中に酸が広がってしまいます。ストローを使えば、口全体に酸を広げず飲めるので、酸が歯に付着するのを防げるのです。歯に触れる面積をできるだけ小さくすることを意識して飲むようにしてください。
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丁寧に歯を磨く
歯を守りたいのであれば、丁寧な歯磨きが必須。食事をした後は水でうがいをし、酸を中和させてから歯を磨くのが理想的です。あまり強く磨きすぎると歯のエナメル質を傷つけてしまうので、毛先が歯に触れる程度に優しく磨くようにしてください。研磨剤が多く配合されている歯磨き粉は、エナメル質を傷つけてしまうので避けるようにしましょう。
どうしても抑えられない過食衝動は○○の疑いがあるかも?
過食嘔吐をやめたいけれど、どうしてもやめられないという人がいます。この時考えられるのが低血糖症です。低血糖症とは、インスリン分泌の異常で血糖値が正常値に落ち着かず、脳が栄養が足りないと誤解し「食べる必要がある!」と判断してしまう症状のこと。
脳からの命令なので、この時の過食衝動は強烈なもの。症状にあらがって過食を我慢するなんて、できなくて当たり前です。
この血糖値の異常に気づけず、「我慢できない自分が悪いんだ…」とまた心理的にストレスを受け、さらに過食に火が付くという悪循環が生まれてしまいます。
もし、心理療法を受けてもなかなか過食衝動に改善が見られない場合は、一度低血糖症を疑ってみてもよいかもしれません。