摂食障害の原因
ダイエット
摂食障害におちいってしまうきっかけは、「ダイエット」と訴える場合がほとんどです。
拒食症や過食症を発症する時期は圧倒的に思春期であり、患者の大半が10~20代の女性であることからわかるように、若い世代の女性は「やせ願望」が強く「もっとやせたい、太りたくない」という思いが強く、過度のダイエットに走る傾向が強いのです。
最初は軽い気持ちで始めた食事制限が次第にエスカレートしていき、やがては食べることに対する恐怖心が生まれて拒食症を引き起こしたり、反動で過食症におちいって、食べては嘔吐したり暴飲・暴食を繰り返すようになる人も少なくありません。コンプレックスが根っこにあるため自覚症状や危機感が薄いことが多く、症状を悪化させてしまうケースが多いのが特徴です。成長期に摂食障害を起こすと、無月経など後々まで様々な悪影響を及ぼす危険があります。
低血糖症
「摂食障害は心の病気だ」と一般的には考えられていますが、実は低血糖症によって摂食障害が引き起こされていることが最近の研究によって明らかになりました。
低血糖症は炭水化物やスイーツなどの糖分を多くとると血糖値が急激に上がり、血糖値を下げるインスリンというホルモンが過剰に分泌されて様々な症状を引き起こす病気のこと。血糖値が急激に上がるとインスリンが過剰に分泌され、今度は血糖値が急激に下がってしまうという「血糖値のジェットコースター状態」が起こってしまうのが原因と言われています。
糖分は生命を維持するための大切なエネルギー源ですが、精製された吸収しやすい糖分を(たとえ吐いても)たくさん取り過ぎると、簡単に低血糖症になってしまいます。血糖値が急激に低下すると脳に糖分をまわすことができないので強い危機感を与え、脳は血糖値を上げるために「攻撃ホルモン」とも呼ばれるアドレナリンなどを分泌して「生きるために食べろ!」と緊急指令を出すのです。このような非常事態では、自分で自分をコントロールできない状態になり、我を忘れて目の前にある食べ物を全部食べてしまう…という過食状態におちいります。
無理なダイエットによって自律神経が乱れると、脳の満腹中枢に情報を伝える神経伝達物質も不足し、どれだけ食べても満腹感を感じられなくなり過食がエスカレートすることも分かっています。こうした低血糖症と自律神経の乱れが過食症の大きな原因になっているのです。
ストレス
摂食障害はコンプレックスなど、心的ストレスがひき金となって発症するケースがとても多いのが特徴です。
体重や体型からくるダイエット志向はもちろん、両親の別居や離婚などの家庭環境によるストレス、職場や学校の環境や人間関係などからくるストレスなど、日々の生活の中で受ける強いストレスが摂食障害を招くケースは少なくありません。
特に職場で業績を上げろと責め立てられたり、過労からドカ食いに走って過食症におちいったり、親の干渉や受験に対するプレッシャーから拒食や過食などの障害を引き起こすことが多いと言われています。ストレスをうまく解消できない、まじめないい子が摂食障害におちいりやすい傾向があります。
愛情・自尊心の不足
家庭環境や育て方が原因となって、摂食障害を引き起こす場合もあります。
両親、特に母親との関係が大きく関わっていると言われ、親が過剰に子供を押さえつけたり監視してしまうと、子供の自尊心が育たないまま思春期を迎えてしまい、心に闇を抱えて摂食障害におちいるケースも少なくありません。逆に親から過度の期待をかけられたことがプレッシャーとなり、強いストレスから摂食障害になることもあります。
母親だけでなく、父親の育児への不参加や両親の不仲などが原因で起こったり、家族からの「太った」「もっとやせなさい」などと言われたことがひき金になることもあります。毎日一緒にいるだけに、なにげない一言がきっかけとなることも多く、自尊心や愛情の不足は摂食障害を完治させる大きな壁になってしまうのです。
成長することへの不安
10代の女性に多い要因です。成長期のまっただなかにいる女性は、自分の体重や体型に過敏になりがちです。
特に最近ではスリムなモデルや芸能人が人気のため、「やせていないとカッコ悪い」という意識が強いのが現実。標準体重なのにもっとやせなければ、と思いこみ、過剰なダイエットに走る傾向があります。
「成長する→体重が増える→嫌われてしまう」という恐怖心から必要以上の食事制限を招き、やがて拒食症を引き起こします。拒食症患者に10代女性が多いのもそのせいで、心とカラダが未熟な年齢で摂食障害を起こすと、後々まで深刻な合併症に悩まされてしまう危険が高まりますので、早期発見・早期治療が重要です。
摂食障害になりやすい人は?
このようにストレスは、過剰な食欲や逆に食欲低下を引き起こす大きな原因になります。10人いれば10通りの考え方があるように、人によってストレスの感じやすさは異なります。
性格やもともと備わっている思考の癖により、知らず知らずのうちにストレスをため込み、摂食障害につながってしまうこともあるのです。
例えば八方美人で、小さな頃から親の言うことをよく聞いていた「いい子」です。「他人からよく見られたい」「きちんとしなくては」と、自分の願望を押さえつけ、本人も気がつかないうちにストレスがかかっていることもあります。
摂食障害の患者さんの中にも、学校や家庭ではいい子、完璧主義の方も少なくありません。
同様に、親が子供に過度に期待や干渉をすれば子供は本音が言えず、ストレスをため込みます。こうした周囲の環境や人間関係によって生じるストレスも、摂食障害の原因を考える上では見逃せません。
さらに、もともと自己評価が低く「自分はダメだ」「人より劣っている」と考えがちな方も要注意。
自分に自信がないことからダイエットを始め、体重計の指す目盛りが減っていくことにより自尊心を満たしていると、のめり込んで摂食障害になっていることも大いにありえます。
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完璧主義な人
拒食症、過食症にかかわらず全ての摂食障害患者に共通しているのが、完璧を求める人であるということです。「こうあるべき」「こうでなければダメだ」といった意識がとても強く、それ以外の状態をなかなか認めることができないため、逃げ場をなくして自分を追いつめてしまいます。
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優柔不断な人、自分に自信がない人
自分にコンプレックスがある人は自己嫌悪におちいりやすく、自信がないがゆえに他人の意見に振り回されたり決断できなかったりする傾向があります。そういう人は普段いい子を演じていることが多く、ひと目につかないところで摂食障害を悪化させているケースが少なくありません。
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ストレス解消がうまくない人
摂食障害は様々なストレスがひき金となって引き起こされるケースがとても多いのです。そのため、ストレスを自分の中に溜め込んだり、ストレスを解消する方法を持たない人は、つらい気持ちのはけ口として過食に走りやすくなります。
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アレキシサイミア傾向
アレキシサイミアとは、広義の意味で感情鈍麻を指します。感情、ものの感じ方が鈍くなったり麻痺したりすることで、摂食障害をはじめとした精神医学や心身症などの一因とされています。
摂食障害患者のなかでも拒食症の人には、このアレキシサイミア傾向の強い人が多いと言われています。
例えば,神経性食欲不振症患者は,空腹感,満足感,情緒的状態,そして性的感受性という身体内部の感覚を正しく同定し反応するということが難しく,感情表現が少ない,また神経性過食症(bulimianervosa;BN)の患者においても,過食行動が起こるときの感情を特定することが困難である,と説明されている.このような摂食障害患者の感情の認知制御における障害はアレキシサイミアと呼ばれ,一般に心身症患者の特徴を示す概念として知られている.
出典:摂食障害患者におけるアレキシサイミアの特徴(心身医学46巻,2006,3号)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/46/3/46_KJ00004075681/_pdf/-char/ja